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札幌家庭裁判所 昭和51年(少ハ)3号 決定 1976年4月05日

少年 U・M子(昭三三・三・一〇生)

主文

少年を二〇歳に達するまで中等少年院に戻して収容する。

理由

1  本申請の要旨

少年は昭和五〇年三月二〇日紫明女子学院(中等少年院)を仮退院後札幌保護観察所の保護観察下にある者であるが、次のとおり遵守すべき事項を遵守せず放恣な生活を繰り返している。

(1)  少年は昭和五〇年三月二〇日雇主○元○男の許に帰住したが、その翌日より夜遅くまで盛り場を遊び歩いて金銭を浪費したうえ、同月二八日勝手に母親の許に帰つたためその翌日解雇された。しかるにその後も母親の許に落着かず外泊を続け、時折帰宅してはシンナー吸入や食糧品の持出しを行い、また外泊のうえゴーゴー喫茶への出入り等不安定な生活を過し、不良グループの番長的存在となつていた。

(2)  札幌保護観察所では同月二九日本人および母親を観察所に呼出し、面接指導したが、少年は行状を改めず、同年四月三〇日には母親が任意出頭して保護困難を訴えた。その後同年五月中には担当者が再三往訪するも不在、母親も少年の外泊を放置していた。同年六月四日呼出状を送付するも本人不出頭、同月末札幌市内大通の露店で担当者が少年を発見し、七月一日主任官が少年本人に面接指導したがその後少年は呼出にも応じなかつた。昭和五一年二月一〇日に至り主任官が本人に面接して婦人相談所に収容保護し、その後も指導を継続したが、以下のような少年の行状で、保護観察は実を結ばなかつた。

(3)  少年は昭和五〇年夏には露店でとうきび販売をしていたが、短期間で離職しその後は徒食しており、この頃入墨する行為があつた。

(4)  昭和五〇年九月中旬頃から約二か月間暴力団員○館の世話を受けて市内のアパートに同居していたが、この間連日のようにシンナーを吸入していた。またマリファナを吸入したこともある。○館の許を去つた後も市内の踊り場で知合つた男と同棲し、同年一二月初めにこの男と別れて後も知人の家を転々と泊り歩いていた。

(5)  昭和五一年二月一〇日少年は上記の如き放浪生活に行き詰つて自ら札幌保護観察所に出頭して今後の生活について相談を求めて来たので、担当官は健全な生活の場を設定して立直りの機会を与えるべく、少年の恋人○山○との生活設定に協力した。このため同年三月三日漸く二人の生活が始まつた。しかし本人はこの生活に適応できず同月九日家出をして、その後再び鎮痛剤の乱用、飲酒、踊り場への出入り等生活態度が乱れ、更に恐喝類似行為をなすに及んでいる。

(6)  同年三月一二日札幌保護観察所に出頭したので、最後の機会を与えるべく、向静学園における生活訓練を検討したが、少年はこれを拒否し、同月一七日婦人相談所において現金三万円を窃取して逃走し、市内の盛り場を徘徊して飲酒、ゴーゴー踊り等に浪費し、翌日はパチンコ、映画に一日を空費した後、○山○に自首をすすめられ、その夜は旅館に泊つたものである。

以上の事実中、(1)、(4)、(5)は一般遵守事項第一号に、(1)、(4)、(6)は同第三号及び特別遵守事項第三号(男性と不真面目なつきあいをしたりゴーゴー喫茶等に出入りしたりしないこと)に、(1)、(3)の事実は同第四号(一つの仕事を辛抱づよくやりとおし、職場を無断でやめないこと)、第五号(受持の保護司に何事も相談して、その指導に従い、自分勝手なことをしないこと)に、(1)、(4)の事実は一般遵守事項第二号にそれぞれ違背するものである。

以上のように少年の行状からみて保護観察による更生は難しく、母親の監護能力に期待できず、他に社会的資源もないので、この際少年を少年院に戻して矯正教育を施すことが相当と思料されるので、戻し収容を申請する。

2  当裁判所の判断

一件記録、当裁判所の調査の結果ならびに審判廷における少年および保護観察官の各陳述を総合すれば、少年は昭和四八年一二月四日札幌家庭裁判所において中等少年院送致決定を受けて紫明女子学院(中等少年院)に入院し、昭和五〇年三月二〇日上記施設を仮退院し、以降札幌保護観察所の保護観察下の者であり、昭和五一年三月一九日引致状により引致され、その後審判日まで犯罪者予防更生法四一条七項、四五条一項ないし三項により留置されている者であること、および、その間前叙申請の要旨の(1)ないし(6)のような行動があつたこと、はいずれもこれを肯認することができる。

そして、かかる(1)ないし(6)の事実は申請の要旨に掲記のとおり、(1)、(4)、(5)については一般遵守事項第一号に、(1)、(4)、(6)は一般遵守事項第三号および特別遵守事項第三号に、(1)、(3)は特別遵守事項第四号、第五号に、(1)、(4)、(5)、(6)は一般遵守事項第二号に、それぞれ違背するものということができる。

更に少年は、従前から指摘されていた生活環境の極度な劣悪状態が全く改善されないまま、実母およびその内夫との関係が更に悪化し、精神的依り拠を全く失つている。仮退院直後の奔放な生活は、施設内の生活からの解放感、遊興生活への関心等が昂じてなされたものであるが、○館某更に恋人○山○との同棲生活は、少年なりに人並みの生活、精神的依り拠を求めての行動と考えられるところ、少年には自らを不幸な人間と規定し、他からの親切に対しては同情されたくないとするひがみがあり、また基本的生活習慣が全く身についていないこともあつて、関係機関の努力も実を結ばず、少年自身も絶望して自暴自棄の生活に明け暮れている。その間何度も死にたいと考え、鎮痛剤、シンナーを乱用し、飲酒の上深夜見知らぬ男と路上で喧嘩し昏倒したり、上記薬物乱用による酩酊状態下で恐喝類似行為を反復し、果ては早く少年院に戻りたいとして婦人相談所において現金窃取を敢行するなど、もはや少年を社会内処遇に委ねることが無意味な状態に立ち至つている。

前叙の如き遵守事項違反に加え、かかる少年の現在の生活環境、その心情に鑑みれば、少年を少年院に戻して再度矯正教育を施すことは誠に止むを得ざるものがある。また少年が切羽詰つてからは何度も保護観察所に自らすすんで出頭し、更に施設収容を自ら希望するところには、長年にわたる施設生活から来る施設依存の気持があり、その精神的自立の為には必ずしも好ましくないものがあるが、反面少年は仮退院後前叙の如く徹底的に出鱈目な生活をした挙句、人並みの生活をしたい、まともな女の子になりたいとの気持になつており、かかる更生への意欲を手がかりとして施設内において徹底した矯正教育を施し、その犯罪的傾向を根絶するには、現在がその好機ともいえる。

以上の次第で、少年を二〇歳に達するまで中等少年院に戻して収容することが相当であると認められるので、犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条、三七条一項、少年法二四条一項三号、少年院法二条三項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 宮森輝雄)

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